寒中コンクリート施工指針・同解説 2010年版 改定点

 寒中コンクリート工事の技術的指針を網羅した、日本建築学会「寒中コンクリート施工指針・同解説」」(以下、指針と略記)は2010年1月に改定されました。
 今回の改定では、2009年2月に大改定された、日本建築学会「建築工事標準仕様書 鉄筋コンクリート工事」(以下、JASS5と略記)の規定に整合させるとともに、寒中コンクリート工事が抱えていた課題への対応を図っています。
 その主な内容は、以下に示すとおりです。

1)寒中コンクリート工事の適用期間の技術的意味の明確化
 寒中コンクリート工事の基本的な目標(初期凍害の防止・強度遅延に対する対応)に対応させて、その適用期間の定義を改定しています。
 これに伴い、各地域における寒中コンクリート工事の適用期間が変更になっています。

2)調合計画手法のJASS5との整合化と簡便化 
 JASS5の大改定では、ΔFが削除され、品質基準強度の定義が変更されました。また、従来の予想平均気温による強度補正値Tに換えて、新たに構造体強度補正値Sが導入されました。
 これらJASS5の改正点に整合させるとともに、指針における調合計画が簡便に行えるように各必要強度を得るための積算温度表などを準備しています。

3)コンクリートの強度増進標準曲線の精度の向上
 旧指針での標準曲線では、高い強度域のコンクリートや若材齢における強度増進過程が実績と乖離するという課題がありました。
 今回の改定では、その精度の向上を図るため標準曲線が修正されています。なお、指針では、この標準曲線に基づき、各強度を得るための積算温度が算出されています。

4)氷点下域での積算温度式の取扱い方の明示
 従来から用いている積算温度式(Σ(θ+10))は、本来、プラス温度域を対象としたものです。したがって、氷点下温度域に用いた場合には、圧縮強度と積算温度の関係を一義的に表すことができなくなります。
 今回、新たに氷点下温度域に対する積算温度式が示されましたが、強度管理段階での適用を原則とし、計画段階では従来の積算温度式を用いることとしています。


改定点:用語の定義

◎ 耐久設計基準強度Fd
 耐久性確保の観点から、構造体コンクリートが満足すべき強度で、計画供用期間の級に応じて定めることになります。
 今回の改定では、計画供用期間の級に超長期が追加されています。

 計画供用期間の級  耐久設計基準強度(N/mm2)  計画供用期間(年)
 短 期  18 約 30
 標 準  24 約 60
 長 期  30 約100
 超長期  36 約200


◎ 品質基準強度Fq

 構造体コンクリートが満足すべき強度で、設計基準強度Fcおよび耐久設計基準強度Fdの大きい方の値になります。
 この強度は、旧JASS5では現場養生供試体を対象としていましたが、今回、構造体コンクリート(コア供試体)に変更されています。
 そのため、旧指針で定義されていたΔF(現場養生供試体とコア供試体との強度差)は削除されています。

  旧 : Fq = Max{Fc,Fd} + ΔF 
  新 : Fq = Max{Fc,Fd} 

◎ 構造体強度補正値mSn

 従来の予想平均気温による強度補正値Tに替わって、新たに構造体強度補正値Sが導入されました。
 構造体強度補正値mSnは、標準養生した供試体の材齢m日の圧縮強度と構造体コンクリートの材齢n日の圧縮強度との強度差による補正値として定義されています。
 なお、通常期における構造体強度補正値mSn(m=28日、n=91日)については、その標準値がJASS5表5.1に示されています。

◎ 調合管理強度Fm
 調合強度の決定や管理において基準となる強度として、新たに定義されています。m日における標準養生供試体が満足すべき強度になります。

  新 : Fm = Fq + mSn


◎ 調合強度F

 調合設計において目標とするコンクリート強度で、標準養生供試体の圧縮強度分布の平均値として位置付けられています。

  新 : F ≧ Fm + 1.73σ  , F ≧ 0.85Fm + 3σ  

 コンクリートの強度変動を表す標準偏差σは、工場の実績、または実績がない場合は2.5N/mm2または0.1Fmの大きい方の値により定めます。

改定点:寒中コンクリートの適用期間

 寒中コンクリート工事は、JASS5(2009年)では「コンクリートが凍結するおそれのある時期に行われるコンクリート工事」と定義されています。
 その適用期間は、指針1.2において下記のいずれかが該当する期間を基準としています。また、適用期間の開始日・終了日は、該当する旬の始めまたは終わりの日とされています。
 下記の2項目は寒中コンクリートで達成すべき目標となる、@初期凍害を防止する、A低温による強度増進の遅れが施工上の支障とならないようにすることにそれぞれ対応しています。

(1)打込み日を含む旬の日平均気温が4℃以下の期間
(2)コンクリートの打込み後91日までの積算温度M91が840°D・Dを下回る時期

安全側の算定と平均的な算定

 強度増進の標準曲線(指針資料3.2)は、標準水中養生の材齢28日圧縮強度(20F28)の設定値によって、安全側の算定と平均的な算定に区別されます。
 強度確保に対する安全性から、構造体コンクリート(品質基準強度)に対しては安全側の算定を用い、施工上必要となる強度(初期強度、設計基準強度)に対しては平均的な算定を用いることが原則となります。

 算定区別  標準水中養生の材齢28日の
圧縮強度20F28の設定
 設定した20F28
確保できない確率(不良率)
 @安全側の算定  呼び強度  4%
 A平均的な算定  調合強度  50%
  





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